◆プレイバック1993

ゼファーズの呼びかけに応じて前年の12月、池袋西口にある丸井の地下にある喫茶店にジュピターズを含む６チームの首脳が密かに集まった。そこにはマリナーズやマジンガーZ’sといった過去に対戦したチームの首脳も集まっていた。ここで私設リーグ「Ｓリーグ」が誕生し、1993年より本格的にスタートすることになった。対戦形式は春の春風杯、秋の紅葉杯と６チームによる総当たりの年間２大会制のため、最低でも年間10試合はリーグ公式戦が組まれることになり、練習試合だけを組んでいた今までとは異なるシーズンの幕開けでもあった。これに伴い試合の度に集める積立金制度 New Jupiters Projectも始動した。

開幕前には西浦に次いでチーム２人目となる箕浦の結婚や２度目の男女混合紅白戦もあり、また初めてTeam Manual（記録集）の発行もあってＳリーグ元年に相応しく盛り上がったまま４年目の開幕を迎えることができた。

Ｓリーグ開幕までに２試合の練習試合を消化し、ついに４月18日、記念すべき第１回春風杯の第一節。リーグ戦に臨むにあたり最初から優勝の目標を定めたジュピターズは初対戦のフラワーズ相手に臆することなく本来の戦い方ができ、15対２で快勝。幸先良いスタートを切れた。しかし、試合中に田辺が大ケガを負ってしまうアクシデントがあった。三塁へ盗塁をした田辺はサードベースに滑り込んだ際、捕手から三塁手への送球が高かったためにジャンプして捕球した三塁手の足が滑り込んだ田辺の足の上に着地。三塁手は金具スパイクを履いていたために田辺の足は金具でえぐられて大出血。そのまま高橋（旧姓）幹子の運転する車で三郷市の病院に向かい５針を縫い、しばらく松葉杖をつかなければ歩行できない状態だった。記念すべきＳリーグの開幕ゲームで大ケガを負ってしまった選手が出たことをＳリーグは重視し、次試合より投手以外は金具スパイクの着用が禁止となった。その後、投手も禁止となり、現在も続く全員ポイント式スパイク着用になる。

田辺をケガで失いながらもジュピターズは逆に奮起してＳリーグで勝利を重ね、春風杯第四節で優勝に王手をかけた。しかし最終節のアスリーズ戦は後藤のホームランのみの１点しか奪えずに４対１でＳリーグ初黒星を喫し、勝ち点でアスリーズと並ばれてしまったものの、それまで奪った大量得点が効き、得失点差でアスリーズを大きく上回って見事にＳリーグ第１回春風杯に優勝、初代チャンピオンチームとして歴史に名を残した。初めて参加したリーグ戦での優勝は大きな自信となったと同時に大きな勘違いも起こしてしまった。激戦を勝ち抜いて優勝を果たしたので約１ヶ月間は試合を組まずに休養に充て、その間に優勝祝賀バーベキューも開催した。７月に入り秋に開催される第１回紅葉杯のために再び練習試合を行ったが、そこから怒涛の４連敗。春風杯最終節から数えると創設年1990年以来の５連敗を記録してしまい、春風杯優勝チームの面影など全くなかった。春風杯の優勝により自分達が強いと奢りが出た結果であり、狂った歯車は結局、シーズン終了まで戻ることはなかった。また、この年の８月に前年に続き２度目の夏合宿が開催されたが、不幸は続くもので夏合宿史上初めて雨天のためにユニフォームを１度も着ることができない残念な合宿になってしまった。尚、この合宿には２年後に正式入団する菊池がスポット参加していた。

Ｓリーグ公式戦以外の練習試合をプレ･シーズンゲーム（PSG）と呼ぶことになったが、そのPSG４連敗、さらに夏合宿でも練習ができず、不安な状態のままで第１回紅葉杯に突入すると、初戦は何とか勝利したものの、その後２連敗で春秋連続優勝の可能性は早くも途絶えてしまう。最終節にはチーム創設ワースト３位の19失点を喫して、春の優勝チームが秋は「まさか」の５位という散々な結果となってしまった。しかし、第四節に手塚が相手チームを１安打に抑えて完投勝利を挙げるなど来季に向けての手応えもつかんでいた。

Ｓリーグ元年の1993年は結局、第１回春風杯を優勝しながら最終的には８勝９敗と創設年1990年以来の負け越しシーズンとなってしまった。そのうちの１勝は初の不戦勝が含まれているので実質７勝９敗と言ってもいいだろう。Ｓリーグ初代優勝チームという勲章は残ったが、自分達の立場を勘違いしてしまう結果にもなった。この教訓を生かし、翌年からは決して奢らずに常に挑戦者の気持ちで戦い続けた結果、この1993年を最後に2009年まで１度もシーズン負け越しはない。

チームとして春は天国、秋は地獄を味わった1993年シーズンだったが、選手の成績を見ると手塚と伊藤が目立った活躍を見せ、手塚はＳリーグ初代MVPに輝き、伊藤は２度目のチームMVPを受賞した。チームタイトルも手塚と伊藤の２人で分け合う結果となり「IT砲」と呼ばれた時代だった。この安定した「IT砲」時代がしばらく続くと思われたが、この年の秋にチーム最年少の24歳で結婚した則が翌年シーズンに大ブレークを果たすことになる。